こんにちは、イノーバ代表の宗像です。

MBAでは、非常にロジカルな思考を学びます。しかし、企業経営においては、ロジカルな発想だけではうまくいきません。むしろ、ロジックよりも、突破力のほうが重要なのです。では、なぜロジカルシンキングよりも突破力のほうが大事なのでしょうか。

MBAはマップ、パッションはコンパスである

僕が過去4年間の起業経験のなかで学んだことを、一つだけ挙げるとしたら、「起業家に必要なのはロジックよりも突破力である」ということです。

起業というのは、なかなかたいへんです。いろいろなたとえがありますが、石油を掘るのに似ているとか、大きな山を目指すという意味では登山に似ているという話があります。

僕もMBAに行っていたこともあって、最初に考えていたのは、きちんと計画を立て、ビジネス・モデルを考え、順序立ててやるのが大事だと思っていました。「計画を立ててやらないと戦略的じゃない」と思っていたんですね。

それであるとき、ジェフ・チャー(Jeff Char)というアメリカ人の起業家に、当時温めていたビジネス・プランを見せに行ったんです。そうしたら、説明を聞き終わるなり、「おまえはなんでそういうことをやりたいわけ?」と、怖い顔で言われて。加えて、「だからMBAはだめなんだ。なんでもかんでも絵を描けばいいと思っている」と言われました。

さらに彼はこう言いました。「起業は一本道じゃいかないんだから、絵を描くことじゃなく、情熱が大事なんだ」と。彼が言っていたのは、「MBAというのはマップなんだ」ということ。「MBA gives your map. But, You need a passion」。「MBAはマップをくれるけれども、おまえに必要なことはパッションだ。パッションはコンパスなんだ」という話です。

「たとえばきみが海外製の時計が大好きで、日本でぜんぜん買えない。それをなんとか手に入れたいと思ったら、その情熱をエンジンにして、いろいろな人に会いに行くだろう。時計屋さんの話も聞くだろうし、職人さんの話も聞くだろう。そうすることで『難しいかもしれないけど、そんなにやりたいならアドバイスしてやるよ』とか『ちょっとあいつに会ってみろ』みたいなかたちで、みんなが少しずつ協力してくれる。そうやって道を切り拓いていくのが起業なんだ」。

起業家はMBAと真逆の発想をしている

実は、このテーマを研究している人がいます。ヴァージニア大学の先生で、TEDなどでも話しているサラス・D・サラスヴァシー教授です。サラス教授は、起業家の思考パターンとMBAの思考パターンを分析した結果、起業家はMBAと真逆の思考をしているというのです。

MBAの人は、あるべきゴールを定めて、そのためのプランを精緻に立てる。だから逆引きをします。一方で起業家は、大まかな方向性を立て、「あそこを目指す」と決め、そのうえで「どう突破するか」を考えるそうです。

そのときに最も重要なのはパッションです。アポなしで偉い人に会いに行くとか、重要な人に会いに行くこともしますし、あるいは自分の知っている人で助けてくれそうな人には頭を下げて「教えて欲しい。助けて下さい」と謙虚にお願いをする。ジェフ・チャーは「そういうところで道を切り拓いていくのが起業だ」という話をしているわけです。

それは、自分が4年やってみて、本当に感じることです。山あり、谷ありですよ。谷、谷、谷、山、山、山みたいな感じでたいへんです。ですが、これから起業する人や起業してがんばっている人たちになにかを伝えられるとしたら、やっぱり起業家にとって最も大事なのは情熱だということ。お金じゃないんですよ。

2種類のモチベーションが人を動かす

人のモチベーションには2種類あって、一つは社会的に意味のあることをやる。社会性です。そしてもう一つがお金です。この事業は儲かるんじゃないかということ。僕も生きていかなきゃいけないから、お金が魅力じゃないと言ったら嘘になりますが、お金を目標にしたらがんばれないですよ。努力が続かない。

そうじゃなくて「解決するんだ」「自分がこれをなんとかするんだ」という思いがあるからこそ、1週間、週7日、土日もなく働くし、平日だって深夜まで働く。そういうことだと思うんです。

僕も起業してから最初の2年間ぐらいは、情熱探しをしていたと思います。これに命を賭ける、人生を賭けると思うものを見つけている人は少ないので、トライアル・アンド・エラーで、いろいろなものにチャレンジする時間が必要だと思います。

スティーブ・ジョブズも、有名なスタンフォードのスピーチで言っています。「ほかの人の意見という雑音に自分自身の内なる声をかき消されないようにしよう。そして最も重要なことは、自分の心と直感に従う勇気を持つことだ。心と直感は本当になりたい自分をどういうわけか既に知っている。そのほかすべてのことは二の次だ」と。気付いていないだけで、自分がやりたいこと、情熱を感じることは必ずあります。その情熱の火をどんどん大きくしていき、起業というたいへんなプロセスをやりぬく推進力に変えていくことが、起業家には必要ですよね。

起業は情熱を燃やして走り続ける「800メートル走」と同じ

僕は、起業は800メートル走と同じだと思っています。100メートル走はすごくたいへんですが、呼吸しなくても走りきれます。逆に長距離も、1.5キロでも5キロでもいいんですが、安定したペースで走れます。ただ、800メートルはつらい。

ある意味で起業も同じです。常に課題はあるし、ある程度走ったと思ったら、まだまだ走らなきゃいけない。陸上をやっていた人だったらわかるけど、800メートル走りきったと思ったら、「はい次、もう1周」みたいなことをやらされて、「うわ、もう死んじゃう」みたいな感じです。でも、やりたいと思うのは情熱のおかげです。

僕の情熱の原点は、実家が福島の田舎で、おふくろが小さなお店を経営していたり、親父が公務員をしていて田舎の人たちのためになにか役に立とうという気持ちの強い人だったということがあります。

ですから、役に立ちたいということと、ビジネスを通してそれをしたいということが、起業につながっているのだと思います。

突破力を発揮してグローバル展開を

いま、日本における最大の課題はグローバル化だと思います。大企業は放っておいてもグローバル化できますが、中堅・中小企業、あるいは個人もグローバル化に対応しなければなりません。

これまでは、明確なピラミッド型の産業構造がありました。いわゆる二次受け、三次受けみたいなかたちで、ある部分を作ることで事足りていた会社が、そうではなくなる時代が来ます。そうしたときに、手遅れになってしまってはまずいわけです。

早いタイミングで自分たちが持っている強みを活かして海外に出て行かなくてはいけないし、僕たちはそのための手助けをしなくてはいけないと思っています。そういったことが、今の僕の情熱です。

あなたは自分の情熱を持っていますか?
その情熱に自分の一生を捧げたいと思っていますか?